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​低周波空気振動被害に於ける医学的見解4

14 Jun 2020

 医学的見解4は生田哲氏の「病気にならない脳の習慣」(PHP新書)からの転載である

 人は生きている限り、心と体が存在するから、人の健康と病気を取り扱うときに、心と体を切り離して考えることは不合理である。あらゆる病気に精神的な要素と身体的な要素が存在することは自明の理である。

 二世紀に古代ギリシアの医師ガレノスが、憂うつな女性は、楽観的な女性に比べ、がんにかかりやすいことを指摘していた。

 一九一九年、大阪で十年以上にわたり結核患者の治療に従事していた医師の石神亨は、ストレスと感染について、つぎのような画期的な発見をしていた。クヨクヨする人や神経質な人ほど結核にかかりやすく、発症した場合、症状が重いこと。一方、楽天的な患者は、結核にかかりにくく、仮にかかっても経過が良好なこと。そして、事業の失敗や家庭不和、ねたみなどマイナスの心理的要因があると、結核の症状が悪化すること。


 また、庶民と臨床の現場の医師は、患者の心の状態が病気からの回復を早めたり、あるいは遅くしたりすることを経験的に知っていた。

 一九八〇年ごろを境に、今では、世界の一流の研究者たちが、心が体の病気に深くかかわっていることを認めている。さらに、脳、免疫系、内分泌系の相互作用を研究する「精神神経免疫学(あるいは、精神免疫学、精神神経内分泌免疫学)」という新しい学問分野が確立され、飛躍的な発展を続けている。

 私たちが危機に遭遇すると、まず第一に緊急反応が起こる。このとき、副腎からアドレナリンが放出される。アドレナリンが交感神経を興奮させることで心拍数が上がり、血液が脳と筋肉に大量に送られる。こうして迅速に動くことが可能になり、戦うことも逃げることもできるようになる。

 この反応が、1929年にウォルター・B・キャノンによって、初めて提唱された動物の恐怖への反応である「闘争・逃走反応」(fight-or-flight response)であり〝急性ストレス傷害〟である。

 第二に、ゆっくりしたストレス反応が起こる。このとき、「視床下部―脳下垂体―副腎に軸(HPA軸)が活性化され、副腎皮質からコルチゾールというホルモンが放出される。このコルチゾールが免疫系をコントロールする。
 この反応が曲者であり、継続してコルチゾールが放出されるのだ。慢性ストレスとなった〝低周波空気振動〝は延々と音源駆動が継続する限りコルチゾール過剰となって悪さをして、うつ、がん、アレルギー性疾患、心臓病、糖尿病などに罹り易くなる。

 人体を敵の攻撃から守る軍隊にたとえられる免疫系が弱くなれば、感染症にかかりやくなるし、がんも発生しやすくなる。だから、免疫系はある程度強くなければならない。

 そもそも免疫系は、外部から体内に侵入してくる病原体や内部で発生するがん細胞をやっつけるしくみである。免疫細胞は、病原体に活性酸素という酸素からできた猛毒を浴びせて殺す。この活性酸素による爆撃によって組織が赤くハレる。これが炎症だ。

 これで病原体を殺すことができるのだが、同時に、味方の正常組織にもダメージが発生する。発赤が、この証拠だ。だから、免疫系は強すぎても弱すぎてもいけないのである。免疫系の強さをコントロールするのがコルチゾールの役割だ。

 もしHPA軸が正常に機能すれば、脳、免疫系、内分泌系の三位一体が整い、内なる活権力も高まる。もちろん、適量のコルチゾールが放出され、免疫系は適正化される。

 急性ストレスであれば、免疫力は低下するどころか、遂に高まるのである。一方、ストレスがダラダラと長引く慢性ストレスとなると、免疫力は低下することが多いが、逆に、免疫力が高まり、アレルギー性疾患を引き起こすこともある。

 慢性ストレスになるとコルチゾールが放出され続ける。過剰なコルチゾールは免疫力を低下させ、カゼやインフルエンザなどの感染症やがんにかかりやすくなる。そればかりか、過剰なコルチゾールは、血圧を上げ、インスリンの効きめを低下させ、この結果、高血圧による心臓病、高血糖による2型糖尿病を発生させやすくする。

 慢性ストレスは骨のミネラル濃度を低下させるため、骨を弱くする。骨をつくるのには長い時間がかがるため、緊急時には骨の合成は後回しにされるからだ。しかも、コルチゾールそのものが骨の合成を抑制する。だから、慢性ストレスは骨粗鬆症の危険因子になっている。

 さらに怖いのは、慢性ストレスが脳にダメージを与えることだ。高濃度のコルチゾールは、海馬の神経細胞を死滅させるのである。海馬は、学習と記憶を担当する重要な箇所である。もし海馬の神経細胞が死ねば、日時、場所、人の名前が覚えられず、自分のいる場所さえわからなくなる、アルツハイマー病が発生する。

 過剰で持続的な心理的ストレスが心臓マヒの原因になっていることは多くの研究で明らかになっている。たとえば、敵愾心の強いA型はふつうの人に比べ狭心症や心筋梗塞に三倍なりやすいことが知られている。

 慢性ストレスが心臓病を引き起こす際に活性酸素がかかわっている。つまり、職場の人間関係や家庭内のトラブルなどの慢性ストレスがあると、胃炎や胃潰瘍が発生しやすい。これはストレスによって発生した活性酸素が、胃粘膜の細胞を攻撃し破壊するからである。

 活性酸素が、血管を保護している内皮細胞に障害を与え、炎症を発生させる。炎症を発見して免疫細胞のひとつ、マクロファージがやってくる。しかも、活性酸素は、悪玉コレステロールと呼ばれるLDL(低比重リポタンパク質)を酸化させる。

 酸化されたLDLをマクロファージが食べてブクブク太り、泡沫細胞になる。この泡沫倒飽が動脈壁にどんどん蓄積すると血管が狭くなるだけでなく、弾力が低下する。こうして動脈硬化起こり、もちろん、血圧も上がる。そして最終的には心臓マヒで倒れることになる。心臓病のおもな原因は慢性ストレスなのである。

 ワシントン大学のピーター・ビタリアノ教授は、慢性ストレスがインスリンの効きめを悪くし、2型糖尿病を発生させる危険因子となっていることを報告した。

 彼が、アルツハイマー病の配偶者を看護する健常人(四七人)と看護していない健常人(七七人)の血液中のコルチゾール、ブドウ糖、インスリンレベルを調べたところ、看護している人は、看護していない人に比べ、これらのレベルが顕著に高かったのである。

 ビタリアノ教授はこういう。「看護人は恐れや不安を抱くことから、気分が低下しがちである。これが慢性ストレスとなって血中コルチゾール濃度を高めている。彼らは糖尿病になるリスクが高い」

 しかし、この重要な論文が発表されてもなお、慢性ストレスが糖尿病の発症原因になっていることを理解する人はまだ少ない。このため、糖尿病対策はもっぱらダイエットと運動と思いがちである。

 慢性ストレスはうつを引き起こす。しかも、うつになると、免疫力がさらに低くなる。うつ患者の免疫力が低下していることは、リンパ球幼弱化反応が低く、NK細胞の働きが低下していることから判明している。リンパ球幼弱化反応は、抗原と反応した免疫細胞のひとつリンパ球がどれだけ分裂・増殖するかを調べるもので、要は、リンパ球の増殖能力を計るものである。

 「配偶者の死」や「配偶者との別れ(離婚)」といった慢性ストレスは、気分を滅入らせ、抑うつ状態を引き起こしやすい。うつ患者についての多くの研究で、うつを経験したことのある人は、経験したことのない人に比べ、がんによる死亡率が高いことが確認されている。

 うつは感染症やがんの危険因子である。とりわけ、NK細胞の働きの低下は、がんの発生につながると理解されている。

 うつ患者の免疫力が下がるおもな理由は、慢性ストレスによってHPA軸の活性化が持続し、コルチゾールの放出が止まらず、コルチゾール過剰におちいることである。

 慢性ストレスはコルチゾールを放出させ続け、免疫力を低下させることが多い。だが、この反対に、慢性ストレスが免疫力を高めすぎることがある。そうなれば、免疫細胞は、敵がいないのに活性酸素を放出して正常組織にダメージを与え、炎症を起こす。これは健康にとって大きなマイナスになる。免疫力は高いにこしたことはないと誤解している読者は、意外に思うのも無理はない。

 コルチゾールは、免疫系という軍隊が暴走し、生体を傷つけてしまわないようにブレーキをかけている。もしコルチゾールの放出が少なすぎるなら、このブレーキの効きが悪くなり、免疫系が強くなりすぎる。これが免疫系の暴走である。

 免疫力が高まりすぎて起こる病気の代表は、アレルギーやぜんそくであるが、このとき、みずからの体の組織を攻撃してしまう関節リウマチ、多発作硬化症、全身性エリテマトーデス、1型糖尿病などの自己免疫疾患も発生する可能性が高い。

 慢性ストレスによってコルチゾールの放出が低下する理由は、まだ研究途上であるが、副腎皮質の機能が衰えるためか、あるいは、ビタミンC、ナイアシンなどの栄養素不足によって必要なコルチゾールがつくられなくなるためであろう。

 コルチゾールの不足によって、免疫系が暴走し、炎症性疾患であるアレルギーやぜんそくが発症する。アレルギーは、ホコリ、ゴミ、ネコの毛、ダニなど体外から侵入してきた異物を放り出す反応である。くしゃみ、下痢、呼吸が速くなることで、異物を体外に排出するのである。

 アレルギーは、白血球のB細胞が働きすぎることによって、IgE(Immunoglobulin E免疫グロブリンE)という物質が大量にできることで起こる。このIgEが肥満細胞にドッキングすると、ヒスタミンやプロスタグランジンといった炎症を発生させる物質を放出する。すると、生体はくしゃみなどによって抗原を体外に排出する。

 ぜんそくが起こるのは呼吸がむずかしくなるせいだが、それは、ホコリ、寒さ、運動などの刺激を受けたときに肺に通じる気道が狭くなるからである。気道が狭くなる理由は、免疫添が暴走し、気管支に炎症が起こり、ハレるからである。

 アレルギーやぜんそく以外にも炎症性疾患がある。その代表は、免疫添が本来守るべき自分を敵と間違えて攻撃することによって発生する自己免疫疾患である。このような状況は、強すぎる免疫添によって起こるもので、コルチゾールが十分にあれば難なく防ぐことができる。

 免疫力が高すぎても低すぎても、健康を維持できないことがわかる。高すぎず、かといって低すぎない、適度なことが大事だ。それによって脳、免疫系、内分泌系の三角形のバランスが整い、内なる治癒力が高まり、健康を獲得し維持することができる。

 免疫力の高さをコントロールするのがコルチゾールである。コルチゾールはアドレナリンの放出によって使いはたされたエネルギーを補い、血糖値や血圧を上げる。だから、コルチゾールは生き物の生存確率を高める。コルチゾールは哺乳類が生きるのに欠かせないホルモンなのである。

 しかも、コルチゾールにはフィードバック機能が備わっている。すなわち、ストレスによってコルチゾールが過剰になれば、脳下垂体に働きかけ、負のフィードバックによってその分泌を抑える。

 また、HPA軸を活性化するCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出因子)とACTH(副腎皮質刺激ホルモン)という二つのホルモンの生産も抑え、高まりすぎたHPA軸の活性を下げる。

 コルチゾールは免疫細胞を血液中から皮膚やリンパ節に移動させ、バイ菌と戦う準備をさせる。その一方で、コルチゾールは免疫系に抑制的に働き、炎症を抑える。

 生体を命の危機から守るストレス反応には、緊急事態になるべく速く対応するための第一陣と、ゆっくりした反応の第二陣がある。

 第一陣は、ストレスに迅速に対応する自律神経系の反応で、交感神経の興奮である。脳がストレスを受けると、一〇〇分の一秒以内に偏桃体がノルアドレナリンを放出し、それが交感神経を通じて副腎を刺激し、第一のストレスホルモンであるアドレナリンを血液に送り込む。アドレナリンは交感神経をさらに興奮させ、つぎのような生理的な変化が瞬特に起こる。

 まず、心拍数を上げ、脳と筋肉に大量の血液を送る。酸素を受け取った筋肉は迅速な勤き加できる。気管支が拡張し、酸累が大量に肺に取り込まれ、脳と筋肉を中心に配られる。通常より多くの酸素を受け取った脳は、冴え、注意力が高まる。たとえケガをしても出血をできるだけ少なくするために、皮膚の血管は収縮する。

 そのうえ、アドレナリンは肝臓に働きかけ、蓄えていたグリコーゲンをブドウ糖に分解して血糖値を上げるだけでなく、蓄積していた脂肪を脂肪酸に分解し、いつでもブドウ糖を補充できる準備を整える。血液中に放出されるブドウ糖のおかげで、私たちは疲れを感じることなく、力を出すことができる。

 「火事場の馬鹿力」や車道を歩き回っている、ヨチヨチ歩きの和が子を危機から救ううために、母親が凄いスピードで助け出すことができるのは、アドレナリンのおかげなのである。

 私たちがストレスに遭遇したときにあらわれるこれらの生理的な変化は、イヌに吠えられたネコを観察してもみられる。しかもアドレナリンを動物に注射しても同じ生理的な変化がみられることから、もともと交感神社の興奮は、その動物の生存を助けるための反応であることがわかる。

 第一陣のすばやい緊急反応に続き、第二陣のゆっくりしたストレス反応が起こる。この反応は、「視床下部―脳下垂体―副腎」軸(略してHPA軸と呼ばれる)の活性化によって起こる。HPA軸はストレス反応と、それに続くストレス負荷のもとになる機能である。

 これによって脳、免疫系、内分泌系が働きだすのだが、うまく機能するときもあれば、しないときもある。HPA軸がうまく機能しているとき、私たちは大きなエネルギーや集中力を活用することで危機を脱出できるが、ストレスが持続し慢性化すると、HPA軸がゆがみ、この結果、三位一体が崩れる。

 このとき免疫力が高まりすぎると、アレルギーやぜんそくを発言しやすくなる。一方、免疫力が低下すると、がんや感染症にかかりやすくなる。

 また、敵と味方を区別するはずの免疫細胞が、その能力を持っていないと、みずからの体の組織を攻撃してしまい、この結果、関節リウマチ、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、1型糖尿病などの自己免疫疾患が発症する。

 事業や家庭の心配事などいろいろな苦労が重なると、それまで黒髪だった人に、急に白髪が増えることがある。ストレスが長く続くと、脳下垂体はACTHづくりにかかりっきりになるため、そのほかの大事なホルモンの生産がおろそかになる。

 精巣や卵巣を刺激するホルモン、成長ホルモン、毛髪の黒色色素を十分につくれない。このため、卵巣や精巣は萎縮し、身長の伸びは止まり、髪の毛が白くなる。

 しかもコルチゾールが放出され続ければ、免疫力が低下する。では、コルチゾールは悪いホルモンなのかというと、決してそうではない。体に有害な物質が、わざわざホルモンとして生産されるはずがない。

 もしコルチゾールがなければ、低血糖や低血圧となり、やがて血液の流れが止まり、死ぬ。たとえば、ネズミを寒いところに放置すると弱って死ぬが、コルチゾールを注射しておくと生き長らえる。コルチゾールは哺乳類の生存に矢かせないホルモンなのである。

 失業や社会的な孤立などの慢性ストレスにさらされると、カゼをひきやすくなる。身近な人の死は免疫力を低下させる。極端なケースでは、愛する人を失うと、故人のあとを追うように死ぬことさえある。

 ストレスが免疫力を低下させることは日常生活で経験しているが、サルを用いた実験でも証明されている。サルにカゼウイルスを注入すると、不安定な社会環境に置かれたサルは、よい環境に往むサルに比べ、カゼをひきやすかったのである。

 以上、見てきたように第一陣のアドレナリンが急性ストレス障害を起こし、第二陣のコルチゾールが、がん、アレルギー性疾患、心臓病、糖尿病等の誘因となるのである。

                                                   以上

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