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風力発電の環境影響評価

国家は、2010(平成22)年に「風力発電施設に係る環境影響評価の基本的考え方に関する検討会」を設け、政府御用達要員を検討委員として集め「効率的・効果的かつ適切な環境影響評価を実施することは、再生可能エネルギーの導入促進や地球温暖化対策の推進の観点からも強く望まれる」として、平成23年11月、法施行令を改正し風力発電(巨大風車)を法対象事業に追加した。(第1種事業:1万kW、第2種事業:7,500 kW)
・法施行令改正 <http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=409CO0000000346>

国民の総意であるらしく偽装し、民主的国家たる体裁は保たれて、平成23年1月13日には風力発電所の現地調査を「滝根小白井ウインドファーム」で行い、平成22年12月9日には航空会館で「風力発電施設と騒音・低周波音に関するヒアリング」を独立行政法人労働安全衛生総合研究所の高橋幸雄氏、一般社団法人日本風力発電協会の木谷勤治氏、北海道寿都町片岡春雄町長、静岡県東伊豆町熱川風車被害者の会の川澄透氏を招集し、アセス推進の意見を述べさせてもいる。

・検討会 <http://assess.env.go.jp/3_shiryou/3-1_government/reportdetail.html?kid=205>
・第3回<http://assess.env.go.jp/4_kentou/reportdetail.html?kid=523>

高橋氏は、①労働環境での低周波音被害はない、②低周波音は聴覚反応として知覚される、③心理的な反応として、アノイアンス(不快感)がある、等と理工学関係者が医師を排除して得た実験結果に基づく閾値論を前提にして、汐見医師とは正反対の低周波音被害は存在しないとの意見を述べているが、確かに、労働安全衛生総合研究所には住宅での低周波音被害相談は届けられないだろうから、無理からぬ意見ではある。

また、①風車を環境影響評価法へ義務付けよ、②参照値を風車(だけ)には適用しないと宣言せよ、③風車被害の疫学的調査を松井検討員に実施させよ、この三点を環境省へ依頼するとした川澄氏は、「風力発電の被害を考える会・わかやま」等も参加する「風力発電全国情報ネットワーク(代表:武田経世)」の主要な活動メンバーである。

ところで、環境影響評価法は、日本における環境影響評価(環境アセスメント)の手続き等について定めた法律であり、その目的は次の通りである。

第一条(目的)この法律は、土地の形状の変更、工作物の新設等の事業を行う事業者がその事業の実施に当たりあらかじめ環境影響評価を行うことが環境の保全上極めて重要であることにかんがみ、環境影響評価について国等の責務を明らかにするとともに、規模が大きく環境影響の程度が著しいものとなるおそれがある事業について環境影響評価が適切かつ円滑に行われるための手続その他所要の事項を定め、その手続等によって行われた環境影響評価の結果をその事業に係る環境の保全のための措置その他のその事業の内容に関する決定に反映させるための措置をとること等により、その事業に係る環境の保全について適正な配慮がなされることを確保し、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に資することを目的とする。
 <http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=409AC0000000081>

言い換えれば、「環境影響評価とは、開発が環境に及ぼす影響の内容と程度および環境保全対策について事前に予測と評価を行い、保全上必要な措置の検討をすること」であり、開発することを前提に、その影響を極小化しようとする事業者が実施する手続きだから、どれほど杜撰な予測であっても、どれほど出鱈目な評価をしても罰則はない。

原子力発電所や火力発電所と同様に、風力発電施設もアセスの対象となったら最後、あの手この手と策を弄されて、施設は必ず建設されると言って良い。現実は、とうの昔から今に至るまで、事業者が暴虐の限りを尽くして、自然破壊と共にヒト・動物の住処を奪い、ヒトを突然死させてきたにも拘らず、お咎め無しだ。

加えて、風力発電施設は主として過疎地の山地に建設されてきたこと、人的被害の実態が隠されていることもあって、反対する絶対人数も少なく、ほぼ全ての反対運動は頓挫してきた。膨大なアセス資料は庶民には解読不可能な物理現象の表記で埋め尽くされ、Web上に開示される資料は印刷もできず、大抵は僅か二週間程でその姿は消されてしまうのだ。

ところが、風力発電を推進する環境省の当該頁には、汐見文隆医師の2010年11月8日「低周波音被害者の人権を認めない国・日本」が掲示されている。汐見医師と言えば、低周波音被害の泰斗として、前々より「巨大風車やエコキュートはリコールすべきだ」と、その建設には反対されてきた。

・Dr. <http://assess.env.go.jp/files/0_db/contents/0523_14/mat_3_6-6.pdf>

この中で汐見医師は「低周波音被害は国家の無為無策に依って拡大している」と自説を述べている。凡そ次の概略である。
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① 被害現場(住民の居住場所)で、風車が回転して苦しい時と、風車が停止して楽な時との測定値に大差があれば、原因は証明されたことになる。因果律において、結果から原因を考察する医学の方法論は確立されている。
② 「風力発電施設から発生する騒音・低周波音の調査結果(平成21年度)」によれば、「環境省では引き続き関連する調査・解析を実施し、実態の解明に努めていくこととしています。」(2010年3月29日発表) 一体いつまでかかるのですか? 住民被害をいつまで放置するのですか?*結果→原因で答えは簡単に出せるのに、原因→結果を考える工学的手法を悪用して、問題をわざと複雑化し、引き伸ばしているのではありませんか?
③ 風車被害者はヒトですか、モノですか? 手法は医学ですか、工学ですか?
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驚くなかれ、風車をアセス対象にすることに反対する医師のこの意見書は、風車建設をアセスの対象にして推進するよう環境省へ望むとの意見を述べた、風車被害者の会の川澄氏が持ち込んだ資料の中にあるのだ。

当時、耳目を引いた汐見医師の風車被害調査は、2008年3月28・29日に地元TV局クルーを従えての苦情者宅訪問だったが、両日共に風は無く風車が回らないので、問診を受けた14名の苦情者は皆「久々によく眠れた」と発言し、汐見医師が用意した低周波音レベル計を用いて計測した結果を見ても、医師は「この低周波音記録では被害アリと言えない」と丁寧に説明されていた。

同医師は被害判定するについて、低周波音なる物理現象の把握なしに意見されたことはない。「低周波音被害者の人権を認めない国・日本」でも記載があるように、被害者の曝露環境変化を把握していない物理現象では被害アリとの意見を出されたことがないし、50Hz以上の高い周波数では低周波音被害ではなく騒音被害とされてきた。

ところが、川澄発言は「3月末に、低周波音を35年ほど研究されております汐見先生にお越しをいただきまして、健康被害を訴えている約20名の方の問診をしていただき、これはあくまでも風車が原因の遠因性の自律神経失調症であると、このような診断をいただいたわけであります」とあり、示された低周波音記録は「2009.04.22 風車回転、2009.04.10 風車停止」である。


注目を集めたイベントとなった会場には、各種メディア、事業者から自治体の職員まで溢れんばかりに詰め掛けた関係者の多くは、汐見医師の2008年3月28・29日調査結果を承知しており、川澄発言は、行政や事業者に「①風車苦情者は虚言者である」とスタンプされた瞬間であるだけでなく、「②風車被害は大した被害では無い」、と社会が共通の認識を獲得し、以後、風車苦情者は侮蔑され続け、加えて汐見医師は面会したことも無い6名を含めて、2009.04.22 風車回転のデータを基に、3月に被害アリとの意見を述べたことにされ、「③ 汐見医師は無責任な意見書を書く」との風評被害を受けることとなった。

川澄発言には「一番重要なポイントは、事業者が風車建設に先立ち補助金申請のために実施した環境影響評価書、この内容が原因の被害である」ともあり、「アセスが不充分だったから被害が発生した」との認識は「適正なアセスは実現できる」と空想しているらしく、「風車建設反対、アセス対象にしてはならない」との話にはならないから不思議だ。自分達には深刻な被害が無いことの証だろう。

汐見医師は常々、環境影響評価法を「アワスメント」であり実効が無いと批判され、被害者救済の為に低周波音被害を研究調査されて、その中で低周波音も学習されたのだが、外因性ならぬ「遠因性」の疾患があるとは、医師でなくとも訝る。

これが、被害実態を知ろうともしない弁護士やメディア、環境ジャーナリストの発言なら未だしも、自身の被害を訴える者が希望する事柄であるなら、貴方の町にも水俣病を、貴女の村にもイタイイタイ病を、君の郷にも砒素被害を、等と活動する公害被害者が人類史上存在したことがないのであり、日本各地に風車被害を提供しようとする東伊豆の風車苦情者は単なる虚言者というか、国家にとっては優れた羊でメエーメエーと啼き続ける。

実際には、低周波音記録もないままに「風車が原因の遠因性の自律神経失調症と診断を受けた」との虚言は、風車被害者救済の道を閉ざし、多くの風車反対運動が頓挫する主因となったのだが、川澄氏はここで、騒音と同様の疫学調査を松井利仁検討委員に求めている。

「生活妨害程度の騒音・振動被害と、死に至る深刻な被害である低周波音被害は全くの別物」「医師でなければ低周波音被害者を救えない」とする汐見医師の医学的見解は理解できず、医師の意見を全く無視する者達には、医師の意見が無用であることは述べるまでもない。


 

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